ニコンが、アクセルスペースの次世代地球観測衛星「GRUS-3」計7機にニコンの望遠鏡が搭載されることを発表しました。小型衛星といえばソニーの宇宙ビジネスが存在するので、宇宙衛星ビジネスにおけるニコンとソニーのアプローチは実に対照的です。

アクセルスペースの次世代「GRUS-3」にニコンの望遠鏡を搭載
両社は2018年から継続的な協力関係を築いており、ニコンは、アクセルスペースが自社運用する地球観測衛星「GRUS(グルース)」シリーズに対し、一貫して特注の望遠鏡(光学系)を供給し続けています。
今回の次世代小型衛星「GRUS-3」にも、ニコンが長年培ってきた宇宙望遠鏡の開発技術やノウハウを凝縮した特注望遠鏡が搭載されました。
アクセルスペースのイメージセンサーユニットは、どのメーカーのセンサーチップが使われているかは企業秘密(非公開)です。地球観測衛星のカメラシステムは、国の安全保障(防衛省の事業など)に直結する最高機密(コア技術)です。特にアクセルスペースは、センサー単体を購入してそのまま使っているのではなく、宇宙の放射線や激しい温度変化に耐えられるよう、周辺の電子回路や制御基板を自社で設計・開発(パッケージ化)しています。そのため、ユニット全体として「自社製」と呼んでいます。
ちなみに「GRUS-3」は新しいイメージセンサーを搭載し、従来の赤・緑・青などの波長に加え、沿岸部や海藻の監視・安全保障(国防)に役立つ「コースタルブルー(Coastal Blue)」という特殊な光の波長を捉えることが可能なセンサーへと進化しています。
この進化した「GRUS-3」計7機は、2026年7月以降に米国カリフォルニア州「バンデンバーグ宇宙軍基地」からスペースXの「ファルコン9」で打ち上げ予定。すでに衛星は米国に輸送済みで、現在は打ち上げを待つ状況です。
| 項目 | アクセルスペース(例:GRUS / PYXIS) | ソニー(例:EYE) |
| 1. 主要な目的 | 産業・ビジネス・地球観測 | エンタメ・教育・宇宙感動体験 |
| 2. ターゲット | 企業(BtoB)、自治体、防衛省など | 一般個人(BtoC)、クリエイター、子ども |
| 3. 衛星のサイズ | 約100kg〜150kg(中型の冷蔵庫サイズ) | 約10kg(CubeSat:一斗缶〜靴箱サイズ) |
| 4. 提供する価値 | 毎日同じ場所を撮影する広域データ | 自分でカメラを操作して写真を撮る「体験」 |
| 5. 現在の状況 | 多数の衛星を運用し、さらに増産・拡大中 | 実証プロジェクト(STAR SPHERE)を完了 |
アクセルスペースの小型衛星の特徴
東大発の宇宙ベンチャーであるアクセルスペースは、宇宙を実用的な「ビジネスインフラ」として提供することを目的としています。
産業用の地球観測(AxelGlobe事業)
自社で「GRUS(グルース)」などの光学地球観測衛星を何機も運用しています。毎日地球の様々な場所を自動で撮影し、その高精度な画像データを農業、地図作成、防災、経済活動の分析向けに企業や自治体へ販売しています。
衛星のオーダーメイド・量産(AxelLiner事業)
「自社の製品を宇宙でテストしたい」「独自の衛星を持ちたい」という他の企業や研究機関のために、衛星の設計・製造から打ち上げ、運用までをパッケージで請け負うインフラビジネスを展開しています。
ソニーの小型衛星の特徴
ソニー(ソニーグループ)は、「クリエイティビティとテクノロジーの力で世界を感動で満たす」という理念のもと、宇宙を誰もが楽しめるエンターテインメントの場にすることを目的に掲げました。
宇宙体験プロジェクト(STAR SPHERE)
JAXAや東京大学と共同で超小型人工衛星「EYE(アイ)」を開発しました。この衛星の最大の特徴は、ソニー製の高画質フルサイズカメラが搭載されている点です。
一般人が「操作できる」エンタメ衛星
専門知識のない一般の個人やクリエイター、子どもたちが、Webアプリ(EYEコネクト)を使って「自分で宇宙のカメラのシャッターを切る」という感動体験を提供しました。映画監督や写真家が宇宙から作品を撮影したり、教育ワークショップに活用されたりしました。(※なお、この『EYE』は当初の計画通り約2年間のミッションを全うし、2025年2月に運用を終了しています。)
その他の技術(宇宙光通信など)
ソニーはほかにも、ブルーレイディスクなどで培ったレンズ技術を応用し、宇宙空間で大容量のデータをやり取りする「宇宙光通信(SOLIS)」の技術開発なども行っています。
宇宙事業におけるソニーとニコンの取り組み方の違い

ニコンの宇宙事業の基本スタンスは、自らプロジェクトを立ち上げる「旗振り役」ではなく、「他社のプロジェクトを圧倒的な技術力で支える、世界最高峰のウルトラ・サプライヤー」です。職人気質的な事業展開ともいえます。
- 超精密な光学系 … 地上の巨大望遠鏡(すばる望遠鏡など)や、地球観測衛星、光通信衛星の心臓部となる、極めて歪みの少ないレンズや反射鏡の特注製作。
- 宇宙用金属3Dプリンター … JAXAの戦略基金プロジェクトにも採択ロケット部品などを宇宙空間や地上で効率よく製造するための「デジタルマニュファクチャリング」に注力しています。
- 信頼性 … 長年ISS(国際宇宙ステーション)にカメラが採用されるなど、極限環境での耐久性と信頼性に定評。

一方ソニーの宇宙事業の基本スタンスは「主導権を握る旗振り役(事業主体)」と言えます。東京大学やJAXA(宇宙航空研究開発機構)との共同開発ではありますが、彼らはあくまで技術的なパートナーやアドバイザーであり、「この指とまれ」と声をかけてプロジェクトを立ち上げ、ビジネスとして企画・運営しているのは100%ソニーです。加えてソニーは、宇宙事業でもエンタメ要素を取り入れているので、両社の宇宙事業はそれぞれの企業カラーが反映されているのではないでしょうか。

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