2026年6月30日、日本の知的財産高等裁判所で下された一つの判決「令和7年(行ケ)第10041号」が、今後のデジタルカメラの動画機能を大きく変えるかもしれません。※判決文(PDF)
今回の裁判で日本国内において無効化されたRED社の「圧縮RAW特許」は、動画の基本技術に関するものであり、長年多くのカメラメーカーにとって大きな障壁となってきた特許のひとつです。
本記事では、パナソニックが特許庁の厳格な審査基準を味方につけて勝訴を掴んだ技術的背景と、この訴訟が海外に飛び火する可能性があるのか、ポイントを整理しました。

パナソニックが仕掛け、日本で訴訟に展開
最初はパナソニックが仕掛けた
一見すると一方的にREDがパナソニックを日本で訴訟を起こしたように見えますが、実はそうではありません。REDが日本でも登録している特許(第5231529号)がカメラメーカーにとって大きな障壁であり、パナソニックが2022年に日本の特許庁に「REDの特許は古い技術の組み合わせだから無効にしてほしい」という審判(無効審判)を請求しました。これがすべての始まりです。
※RED特許 第5231529号 : ビデオカメラで撮影した大容量のRAW動画データを、画質を保ったままカメラの内部で圧縮してメモリーカード等に記録する基本技術
特許庁の判断
パナソニックは、REDが特許を出願するよりも前に存在していた古い論文や他社の公開技術(公知文献)を徹底的に洗い出し、「REDの特許は出願された時点でそもそも新しくなかった」という完璧な理論武装をして特許庁にぶつけました。
特許庁はパナソニックが提出した証拠の客観的な正しさを認め、「確かにこれは新発明とは言えない」として無効審決を出しました。特許庁とパナソニックが密約を交わしたといった話ではなく、パナソニックの事前の調査力と戦略が、日本の特許庁の厳格な審査基準を100%味方につけたと言えます。
ニコン(RED)が知財高裁に訴えを起こす
- 知財高裁の事件番号:令和7年(行ケ)
- 第10041号判決日:2026年6月30日
- 原告(参加人):株式会社ニコン(RED.comから承継)
- 被告:パナソニックホールディングス株式会社
- 対象となった特許番号:特許第5231529号(発明の名称:ビデオカメラ)
特許を無効化されたニコン(RED側)は「特許庁の判断は間違っている」と知財高裁に訴えを起こしましたが、知財高裁はニコン側の主張を棄却。特許庁が下した「REDの特許は無効」という判断は100%正しいと太鼓判を押したのが今回の判決です。これにより、日本国内におけるREDの圧縮RAW特許は完全に消滅しました。
今回の判決における米国と欧州の温度差
今回の判決は、あくまでも日本国内における判決にすぎません。特許権は「属地主義(その国の特許はその国の中だけで有効)」という世界共通のルールがあるためです。しかし、REDのお膝元の米国とそれ以外の欧州などの地域では対応が変わってくるかもしれません。
米国ではRED特許を崩せない可能性が高い
- 2013年 … ソニーが米国の法廷でRED社と争うも、特許は崩せず
- 2019年 … アップルが自社のProRes RAWを有利にするため、米国特許審判・控訴委員会に無効化を申し立てるも却下
- 2022年 … ニコンも米国でRED社から提訴され、特許の無効を主張して反訴したが、結局法廷決着がつかないまま、ニコン側がRED社を買収
米国ではすでに判例がいくつか出ており、訴訟になった場合はREDの特許を覆すのは難しいと見られています。米国におけるRED特許は、アップルでも崩すことはできず無傷で生き残っています。
欧州などの地域は、連鎖する可能性
しかし、今回の日本の判決は「一国だけの小さな出来事」では終わりません。パナソニックが日本で勝ち取った勝利は、世界中のメーカーに「RED特許の攻略本」を配ったも同然だからです。
日本の司法(特許庁および知財高裁)が「REDの特許技術は、出願前にすでに存在していた古い技術の組み合わせに過ぎない(進歩性がない)」と断じた法的なロジックや、パナソニックが必死に集めた証拠(公知文献)のリストは、すべて世界に公開されます。
これを見た他国のメーカー(あるいはソニーやキヤノン、パナソニック自身)が、「日本と同じ証拠を使えば、うちの国でもREDの特許を潰せるのではないか?」と考え、欧州やアジア各国の特許庁で一斉に無効化裁判を起こす(ドミノ倒しのような)連鎖が起きる可能性が十分にあります。
そうなると、パナソニックや他社のカメラで内部RAW記録が標準搭載されやすくなる


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