なぜパナソニックは勝てたのか?REDの圧縮RAW特許を日本で無効化させた2つの焦点

パナソニック RED特許無効化させた2つの焦点

先日、パナソニックが日本でREDの「圧縮RAW特許」を無効化した記事を掲載しました。今回は、基本的に「判決文(PDF)」をベースに、裁判で何が最大の焦点となり、なぜ裁判所がパナソニックの主張を認めたのかを解説します。

長年カメラ業界にそびえ立っていた「鉄壁のRED特許」が、なぜ日本で打ち破られたのか? その背景には、知財高裁で繰り広げられた技術論争と法的な駆け引きがありました。「先行技術と何が違ったのか?」「当業者にとって容易に思いつくことだったのか?」といった技術的なポイントも含め、分かりやすく紐解いていきます。

前回の記事でも触れましたが、これまでの流れざっくり説明すると、先に仕掛けたのはパナソニックです。パナソニックが2022年に日本の特許庁に「REDの特許は古い技術の組み合わせだから無効にしてほしい」という審判(無効審判)を請求しました。特許庁はパナソニックが提出した証拠の客観的な正しさを認め、「確かにこれは新発明とは言えない」として無効審決を出し、特許を無効化されたニコン(RED)は「特許庁の判断は間違っている」と知財高裁に訴えを起こし、2026年6月30日に判決が言い渡されました。

判決: 主文が示す、パナソニック「100%完全勝訴」

主文(原文)

  1. 参加人の請求を棄却する。※参加人 : ニコン(RED)
  2. 訴訟費用は参加人の負担とする。

一見すると法律用語独特の堅い言い回しですが、これは「パナソニックの100%完全勝利、ニコン(RED)側の全面敗訴」を意味しています。裁判所が請求を棄却したことで、特許庁が下した「REDの特許は無効」という判断が100%正しかったことが正式に決定しました。

また「訴訟費用は参加人の負担」という決定は、裁判費用を全額敗訴した側に負担させるもので、裁判所がニコン(RED)側の言い分を1ミリも認めなかった(完敗であった)ことを象徴しています。

判決文から読み解く2つの争点

デモザイキングを巡る攻防:静止画 vs 動画

まず予備知識として、一般的なデジタルカメラは「センサーデータ → カラー化(デモザイキング)→ 圧縮」という順番で処理を行います。しかし、REDの特許は「センサーデータ → 圧縮 → カラー化(後回し)」という真逆の順番を採用していました。

実は、REDがこの特許を取得するより前、2004年の古い文献(甲1)に、すでにこの「先に圧縮してカラー化を後回しにする」という処理の順番が掲載されていたのです。ここが裁判の最大の争点となりました。

ただし、パナソニックが発掘してきたこの2004年の文献は「静止画用」の技術でした。これに対してニコン(RED)側は、「静止画と動画は全くの別物であり、うちの技術には十分な新しさ(進歩性)がある!」と以下のように猛反論を展開します。

  • ニコン(RED)の主張
    • 甲1は静止画を対象とした圧縮技術であり、動画を連続して記録するものではない。
    • 甲1はあくまで「1枚のRAW画像をどう圧縮するか」という単発の技術に過ぎない。
    • 一方、弊社の特許は「カメラ内で動画(複数フレーム)をリアルタイムにRAW圧縮して記録する」システム全体に関するものであり、静止画の圧縮技術とは課題も構成も異なる。

知財高裁は、先に圧縮してデモザイキングを後回しにするという、(動画撮影において)基本的な処理の順番を変えたことが特許的な発明というニコン(RED)の主張を認めず、古い文献(甲1)とREDの発明との間に相違点は見られないと判断しました。

※デモザイキング : イメージセンサーが捉えた「白黒のモザイク状のデータ」を、私たちが普段目にする「カラー画像」に変換する画像処理のことです。

ガンマ補正と強調処理の解釈

REDの特許には、データを圧縮する前に、画質の劣化を防ぐための「予め強調処理(プリエンファシス)を行う」というステップが含まれていました。

  • ニコン(RED)の主張
    • パナソニックが持ち出してきた2004年の古い文献(甲1)に書かれているのは、単なる一般的な「ガンマ補正」だ。
    • 弊社の特許にある「予め強調処理」は、それよりも遥かに高度で特殊な画質キープ技術であり、古い文献には一切書かれていない独自技術だ!

知財高裁は、画像データに対して「ガンマ補正」をかければ、人間の目が感知しやすい暗い部分のデータが手厚くなり、結果としてデータが「強調」されるのは、当時の画像処理における「技術常識」であると判断。

REDの特許には、強調処理をどう行うのか、具体的な数値や条件が記されておらず、甲1にに記されている「ガンマ補正」とREDの「強調処理」は一致し、相違点は認められないとバッサリ切っています。

まとめ : ニコンを巡る「歴史の皮肉」

2022年に米国でRED社から「ニコンZ9の内部RAW記録は特許侵害だ!」と訴えられたニコンは、今回のパナソニックと全く同じように、「REDの特許なんて無効だ!古い技術の焼き直しだ!」と激しく戦っていました。その後、ニコンはREDを買収したことは皆さんの記憶に新しいところ。この買収によってRED社の特許資産を引き継いだニコンは、今度は一転して「特許を守る側」としてパナソニックの奇襲を迎え撃つ立場になってしまいました。まさに業界の歴史のねじれを感じざるを得ません。

前回の記事でも触れましたが、あくまでも日本国内における判決にすぎません。今回の知財高裁の判決はあくまで「日本国内における特許の無効化」にすぎません。特許権には「属地主義(その国の特許はその国の中だけで有効)」という世界共通のルールがあるため、米国など他国でのRED特許はいまだ無傷で生き残っています。

しかし、日本市場においてパナソニックが勝ち取ったこの「無効化の攻略本(ロジックと証拠のセット)」は、世界中のメーカーが閲覧可能です。今後、この日本の判決をキッカケに、欧州など他の地域でもRED特許のドミノ倒し(連鎖無効化)の動きが出てくるのか、グローバルなカメラ市場の動向から目が離せません。

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