オリンパスの映像事業はOMデジタルソリューションズとなり、ヘリテージカメラ「PEN」と「OM」を継承しています。OMデジタルが投資ファンドJIPから独立し、今後登場する次世代「PEN」と「OM」カメラに注目が集まる事は必至。なので両機種の由来をはじめ、ブランドが受け継ぐ「精神」を紐解きます。

PENの由来
万年筆(ペンのように)手軽に持ち歩け、誰でも簡単に写真が撮れるカメラ」を目指して命名されました。
背景
1959年、当時高価で重かったカメラを、もっと身近な存在にするために開発されました。
コンセプト
1枚のフィルムで2枚撮れる「ハーフサイズカメラ」として登場し、メモを取るペンと同じ感覚で日常を切り取るという願いが込められています。
カメラの民主化
「PEN」が登場した1959年は、日本が高度経済成長期に入り、生活が豊かになり始めた時期です。当時はフィルム代や現像代も非常に高価でした。「PEN」を1枚のフィルムで2倍撮れるハーフサイズカメラに仕上げたことで、本体価格だけでなく「撮影にかかるランニングコスト」を半分にしたことが、一般家庭への普及を決定づけました。
重くて黒い鉄の塊だったカメラに対し、PENは小型でデザインも洗練されていたため、初めて「女性が持ち歩くカメラ」という市場を作り出しました。ちなみにミラーレスカメラ黎明期でも同じ現象が起きました。
豆知識
米谷氏の「入社1年目」の仕事
米谷氏は入社直後、上司から「6,000円で売れるカメラを作れ」という無茶振りをされ、それを実現したのが初代PENです。ちなみに1959年(昭和34年)の大卒初任給は約13,000円〜15,000円程度。
レンズへのこだわり
安価なカメラには普通載せない、テッサー型の高級レンズ「D.ZUIKO」を搭載。「写りは高級機に負けない」というギャップが、当時の消費者に衝撃を与えました。
リアキャップを兼ねた裏蓋
通常は蝶番(ちょうつがい)で開閉する裏蓋を、すっぽり抜き取る「底蓋着脱式」にすることで、高価な部品点数を減らしました。
OMの由来
開発を主導した伝説的設計者 米谷美久(Maitani)氏の「M」と、オリンパス(Olympus)の「O」を組み合わせたものです。
背景
プロやハイアマチュアが使う一眼レフは、その性能と引き換えに巨大化していました。米谷氏は「撮りたい時に手元にないカメラは意味がない」と考え、徹底した小型軽量化に挑みます。
「M-1」から「OM-1」
当初、米谷(Maitani)の頭文字から「M-1」として発売されましたが、ライカから「Mシステムと紛らわしい」とクレームが入り、急遽「Olympus」のOを足して「OM-1」に変更されました。
単なる名前の問題だけでなく、ライカが当時苦戦していた「一眼レフ(ライカフレックス)」よりも、オリンパスの新しい一眼レフが圧倒的に小さく、高性能だったことへの危機感があったと言われています。
米谷美久氏は、ペンタプリズムをボディ内に沈み込ませる構造や、シャッターの衝撃を吸収するエアダンパーを開発。ライカが「物理的に不可能」と考えていたサイズで、プロ仕様の耐久性と使い勝手を実現してしまったのです。
米谷氏にとって小型化は目的ではなく、「撮影者の負担を減らすための手段」でした。そのためにカメラの構造そのものを再発明したのが「OM-1」です。
豆知識
「M-1」刻印のレアモデル
発売直後のごくわずかな期間だけ「M-1」の名で流通した個体があり、現在は中古市場でコレクターズアイテムとなっています。
ネジ一本への執念
米谷氏は設計チームに「ネジ一本の頭を削ってでも小さくしろ」と命じたと言われています。内部パーツの配置があまりに過密だったため、組み立てる順番を間違えると二度と完成しないほどだったそうです。「時計のような精密さ」と評されるOMの内部構造は、この「隙間を許さない執念」から生まれました。
米谷氏の愛車
米谷氏はフォルクスワーゲン・ビートルを愛用しており、その「無駄のない機能美」がOMのデザイン思想に影響を与えたと言われています。
デジタル時代に引き継がれる精神
なぜ今「PEN」と「OM」なのか
デジタル時代になってもこの名前が残っているのは、PENが「日常を軽快に撮る」、OMが「機動力を活かして本格的に撮る」という、フィルム時代から続く明確なコンセプトが現代のユーザーのニーズ(ミラーレスの小型軽量化)と一致しているからです。
半世紀を超えて受け継がれる「M」のダブルミーニング
2020年にオリンパスから分社化した際、新社名は「OMデジタルソリューションズ」となりました。単なる過去の遺産ではなく、「Outdoor Mobility(外に持ち出す機動力)」という哲学を再定義してブランド名に込めています。
引き継げているところ(DNAの継承)
- 小型軽量至上正義
- 共通点 : 米谷美久氏の「機動力こそがシャッターチャンスを生む」という思想は、マイクロフォーサーズ規格の核として今も生きています。
- ポイント : フィルム時代の「OM-1」は、当時の135フルサイズ機が大型化する中、レンズを含めたシステム全体のコンパクトさを追求する姿勢を突き通し、現在のマイクロフォーサーズカメラに通じます。※1920年代にライカが映画用35mmフィルムを写真用に転用した際、そのフィルム規格に付けられた番号が「135」でした。初代PENは「135フィルム」を使いながら、その1枚の枠を半分(ハーフ)にして撮るカメラでした。このフィルム規格が後にデジタル一眼レフの「フルサイズ」へと繋がります。
- 「凝縮感」のあるビルドクオリティ
- 共通点 : PENシリーズのアルミ削り出しのような質感や、「OM-1」のダイヤルの操作感など、「道具としての心地よさ」を重視する工芸品的な作り込みは健在です。
- 「過酷な環境」における信頼性
- 共通点 : フィルム時代のOMも過酷な環境(エベレスト登山隊など)で信頼されましたが、現在のOM SYSTEMも業界最高峰の防塵・防滴性能を誇ります。これは「Outdoor Mobility」の直系と言えます。
独立、そして次世代のPENとOMへ
OMデジタルソリューションズは投資ファンドJIPの手を離れ、完全な独立企業としての歩みを加速させています。この大きな転換期に、私たちが改めて「PEN」と「OM」という名前に注目する理由は、そこにブランドの「生存戦略」がすべて詰まっているからです。
「PEN」が切り拓く、デジタル・ライフスタイルの新境地
かつて6,000円で「カメラをみんなの手に」届けたPENは、次世代において「スマホでは撮れない日常」を美しく残し、よりパーソナルな表現ツールへと深化していくでしょう。単なる道具を超えた、持ち歩く喜びを感じさせるデザインと直感的な操作性は、今の時代にこそ求められる「ゆとり」の象徴です。
「OM」が挑む、ネイチャー・モビリティの極致
ライカを驚愕させた「小型・軽量」の執念は、新生OM SYSTEMにおいても揺らぎません。独立によって、より迅速な意思決定が可能となった今、次世代の「OM」はコンピュテーショナル・フォトグラフィの力で、フルサイズ機という物理的な壁をさらに鮮やかに飛び越えていくはずです。
継承は「過去」ではなく「未来」への約束
- PENの約束:誰でも、どこでも、ペンのように人生を記録できる自由を、スマホ時代にも守り続ける。
- OMの約束:どんな過酷な場所でも、小型軽量の機動力を武器に、撮りたい瞬間に立ち会える信頼を裏切らない。
「PEN(万年筆のように手軽に)」と「OM(米谷氏の哲学と機動力)」。この二つの名前が持つ意味は、半世紀以上の時を経て、現代の「Outdoor Mobility(あらゆる場所がシャッターチャンスになる)」というビジョンに統合されました。
オリンパスから引き継いだのは、単なるブランド名ではありません。それは「常識を疑い、撮る人を自由にする」という、エンジニアたちの反骨精神そのものです。独立という新たな翼を得た新生OM SYSTEMが、次にどんな「驚き」を私たちの手に届けてくれるのか。
「PEN」と「OM」の物語は最終章ではなく、第3章の幕を上げたばかりなのです。
※ 独立した今、気になるのは次世代機の姿です。なぜOMデジタルは2000万画素にこだわり続けるのか? その合理的理由と、次世代機が満たすべき条件について、来週詳しく考察します。


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