万能機へのアンチテーゼ : PetaPixelのインタビューから読み解く富士フイルム「次の一手」と生存戦略

PetaPixelが公開した最新のPodcast動画。その中で、富士フイルムの五十嵐氏が語ったインタビューが、国内外のカメラファンの間で話題となっています。「 Focus on Glass(レンズ総選挙)」の舞台裏から、開発陣が本気で興奮したという「2焦点レンズ」の構想、すべてのカメラに同じ機能を詰め込むのではなく各シリーズそれぞれの役割に応じた製品開発を続けていくことなどを語っています。

一見するとよくある公式インタビューですが、その言葉の裏側をじっくり紐解いていくと、2026年現在のカメラ市場における、フジの「次なる生存戦略」がはっきりと見えてきました。単なる事実のまとめに留まらず、そこから透ける今後のラインナップの運命を、ファン目線で考察します。

個人的に興味深かったポイントを要約しました。

「Focus on Glass」イベントの狙いと成功

開催の背景

富士フイルムは80年以上にわたりレンズを製造してきましたが、レンズの魅力(F値や解像度だけでなく、収差や歪曲、こだわりなど)は数値化して伝えるのが難しいため、ユーザーと新しい形でコミュニケーションを取り、レンズの多様な魅力を知ってもらうために、あえて様々なレンズ案(コンセプト)を提示するイベントを企画しました。

結果と手応え

初めての試みで「全く投票が集まらなかったらどうしよう」という不安もありましたが、非常に多くのフィードバックや投票が得られ、大成功に終わりました。今後もレンズだけでなく他の製品カテゴリーでも同様のイベントを行いたいと考えています。

ユーザー投票の結果と「夢のレンズ」

最多得票のレンズ

既存の人気レンズを拡張した「16-80mm F2.8」や、大口径の「18-50mm F1.4」が人気を集めることは社内でも予想通りでした。

驚きの結果(五十嵐氏のお気に入り)

最も意外だったのは、過去のフィルムコンパクトカメラ「カルディア トラベルミニ」に搭載されていた28mmと45mmを切り替える機能をヒントにした「デュアル焦点(2焦点)レンズ」が3位に入ったことです。

実はレンズの設計チームだけでなく、カメラ本体の企画チームからも同じようなアイデアが上がっていました。私自身もこの2焦点レンズが一番のお気に入りで、いつか実現させたい「夢のレンズ」です。

開発陣の熱量

これまで開発陣は、発表された製品の解説をすることはあっても「自分たちが本当に作りたい夢のレンズ」を公に語る機会がなかったため、このイベントには非常に興奮して参加していました。当初は40個以上のアイデアがあり、絞り込むのが大変なほどでした。

コンセプトレンズ実現への課題

16-80mm F2.8について

技術的には可能ですが、一番の課題は「サイズと軽さ」です。すでにF4のモデル(440g)があるため、ユーザーが日々持ち歩きたいと思えるサイズ・重さ(目安として400〜500g前後)に収められるかが重要になります。今すぐ発売できる段階ではありませんが、技術の進歩とともにもたらされる「時間の問題」だと考えています。

2焦点切り替え単焦点レンズについて

こちらもサイズと画質の両立が最大の壁。昔のフィルムカメラ(カルディア)では、もう一方の焦点距離に切り替えた際に、F値が暗くなったり光学的・技術的な制限がありました。しかし、現代のユーザーを満足させるには、両方の焦点距離で妥協のない高い画質を保証し、かつコンパクトにする必要があります。

Xマウントラインナップの「隙間(弱み)」と強み

現在の強み

富士フイルムの原点である「レンジファインダースタイル」と「単焦点レンズ」の組み合わせは、今でもユーザーが同社に抱く最も強いイメージであり、最大の強みです。

今後の成長領域(これまでの弱み)

一方で、現在はセンターファインダースタイル(X-Tシリーズなど)や大型グリップのモデル(X-Hシリーズなど)も増えている。それを踏まえると、「望遠レンズ(テレフォト)側」にはまだラインナップを拡充できる余地が残されており、そこが現状の課題であり、今後強化すべき領域だと考えています。

ミラーレス化による市場の変化と「写真へのこだわり」

業界の大きな変化

2012年の「X-Pro1」発売当時はまだ一眼レフが市場の8割を占めていましたが、現在は9割がミラーレスになりました。ミラーレス化=カメラの電子製品化を意味し、これがカメラを「動画(ハイブリッド)」へと進化させました。富士フイルムも現在、レンズの「バージョン2(リニューアル)」や新レンズを作る際は、必ず動画撮影(静音性やフォーカスブリージング対策など)への配慮を行っています。

シネマ・放送用レンズとの融合

現在、私の統括する組織にはデジタルカメラだけでなく、シネマレンズ(FUJINON)や放送用レンズのチームも統合されており、ひとつのチームとして動いている。今後はシネマ用PLマウントやGFマウントなど、それぞれのシステムが相互に技術共有し、ユーザーの選択肢が広がるような製品作りを目指しています(具体的な製品発表は控えるが、その方向性を肯定)。

富士フイルムが目指す方向性

カメラが動画対応のハイブリッド機へと進化する一方で、「写真に特化した(フォトセントリックな)カメラ」への需要や興味も、確実に改めて高まっていると感じています。

Q : なるほど。つまり、すべてのカメラを「スイスアーミーナイフ(万能機)」のようにする必要はない、ということですね。

A : その通り。 富士フイルムは写真文化の遺産や歴史を忘れず、いかに人々を「写真(Stills)」でワクワクさせられるかというテーマを大切にしています。すべてのカメラに同じ機能を詰め込むのではなく、各シリーズ(X-E、X-T、X-Proなど)でそれぞれの役割に応じた製品開発を続けていきます。

【考察】デジカメライフ的視点

富士フイルム

ラインナップの隙間(望遠)をどう埋めてくるか?

現時点におけるXマウント用の白レンズは、「XF200mmF2 R LM OIS WR」「XF500mmF5.6 R LM OIS WR」「XF150-600mmF5.6-8 R LM OIS WR」の3本です。五十嵐氏の発言を踏まえると、このあたりの望遠(ズーム)レンズラインアップのさらなる拡充を計画していると見て間違いないでしょう。

フルサイズと比べてAPS-Cは、1.5倍の焦点距離を稼ぐことが可能であり、システム全体の小型軽量化において絶対的な優位性があります。しかし、ターゲットが自然・野生動物・スポーツ撮影となれば、ボディ側の連写性能、AF速度・精度・被写体認識の追尾性能といった「動体対応力」の大幅な向上もセットで必要不可欠になります。将来的な「本格派スポーツ(スピード)カメラ」の登場にも期待したいところです。

2焦点レンズがもし出たら、どんなゲームチェンジャーになるか?

Focus on Glassのユーザー投票で3位にランクインした「2焦点切り替え単焦点レンズ」。かつて大ヒットした、2つの焦点距離を切り替えて使えるフィルムカメラ「カルディア トラベルミニ(28mm/45mm搭載)」にインスパイアされたという、最高にフジらしい企画です。

現代のミラーレス用レンズとして、どこまで高画質を担保しながらコンパクトにまとめられるかが最大の焦点になりますが、いっそ周辺光量や歪曲は「カメラ内デジタル補正」に割り切って任せてしまっても良いのではないでしょうか。もし製品化に成功すれば、便利ズームとも従来の単焦点とも違う、スナップシューターの歩き方を変える「第3のレンズカテゴリー」としてパンケーキレンズのように熱狂的な固定客がつくはずです。

今後のX-ProやX-E、X-Tシリーズのキャラクター分けはどうなるか?

すべてのカメラが万能な「スイスアーミーナイフ(十徳ナイフ)」である必要はない方向性を示しており、今後の既存シリーズがより一層「顧客が指名買いしたくなるコンセプト色の強いカメラ」になることを示唆しています。

今は静止画/動画のハイブリッドカメラの時代なので、富士フイルムが製品ごとに静止画と動画をどう落とし込んでくるのか。十徳ナイフのように何でも機能を詰め込むと、逆に個性がないカメラになってしまいます。

小型軽量x色再現x光学

年間決算発表(2025年4月-2026年3月)を見て分かる通り、現在の富士フイルムのイメージング事業はまさに絶好調。その際の質疑応答でも、同社はカメラ事業が好調な理由として「小型軽量 × 色再現 × 光学」という3つの掛け算に勝機を見出していると明かしていました。

近年の大きなトレンドの1つに「(高級)コンパクトデジタルカメラの回帰」があります。世界的な大ベストセラーとなった「X100」シリーズに続く、さらなるXコンデジの計画はあるのでしょうか。「X half」というコンセプト色がかなり強い機種をラインアップしていますが、かつての「X70」のような、ポケットに収まるAPS-Cスナップ機の復活を期待しているのは私だけではないはずです。

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