カメラ業界における「SD Expressの挫折」と「CFexpressの普及」はなぜ起きたのか

新世代の爆速SDカードとして期待された「SD Express」。しかし、発表から数年が経過した今、私達のカメラに入っているのは「CFexpress」や従来の「SD UHS-II」ではないでしょうか。

かつては次世代の本命と目されたSD Expressが、なぜカメラ業界で「挫折」と言われる状況に陥り、一方でCFexpressが次世代「覇権」を握るに至ったのか。そこには、スペック表だけでは見えてこない「互換性」「熱」「動画性能」という3つの大きな壁がありました。

今回は、迷走するメモリーカード規格の現状を整理し、私達が今選ぶべきメディアの正体を解き明かします。

SD Expressの挫折とCFexpressの普及

メモリーカード三つ巴 性能比較表

項目SDカード (UHS-II)SD Express (SD 9.1)CFexpress (Type B)
通信技術SDバス(独自)PCIe / NVMe (SSD)PCIe / NVMe (SSD)
理論最大速度312 MB/s4,000 MB/s4,000 MB/s
実効速度の目安250 MB/s800〜3,500 MB/s800〜3,500 MB/s
下位互換性非常に高いあり(大幅な速度低下)なし(XQDのみ一部可)
放熱・堅牢性△(プラスチック)△(プラスチック)(金属筐体・高耐久)
カメラ採用数◎(ほぼ全ての機種)×(ほぼゼロ)○(プロ・ハイエンド機)
主な用途静止画・4K動画PC・ゲーム・モバイル高速連写・8K/RAW動画
立ち位置「完成された王者」「孤高の異端児」「次世代の標準」

従来SDカードの現在地 さらなる速度向上の限界

実は私達が普段使っているSDカードは、すでに技術的な「終着駅」に到着しているのです。そのため連写や8K撮影などのプロ機高画素機は、さらに高速なメモリーカードが必要だったのです。

通信方式(UHS-II)の限界

現在のSDカードは、最低保証速度 V90 (90MB/s) が最速のカード。規格自体の理論最高速度は ” 312MB/s ” です。さらに速度を引き上げ可能と思うかもしれません。しかし実効速度 (理論値の3割を常に維持する) において限界値に近いと言われています。これ以上速度を上げると、少しのノイズや熱で速度が落ちた瞬間に規格違反となってしまうため、メーカーも規格団体もリスクを取れません。

プラスチック筐体による熱の限界

書き込み速度を上げる事は、電力を大量に消費し激しく発熱します。SDカードは、ほぼ全面がプラスチックで密閉されており、熱が内部にこもります。そのため熱くなると、チップを保護するために自動で速度を落とす ” サーマルスロットリング ” が発生することに。V90を超える速度を保証するためには、この熱問題をクリアする必要があります。要は ” 発熱 ” と ” 消費電力 ” が跳ね上がり、薄いプラスチックのカードでは耐えられなくなってしまいます。

SD Express 爆誕 しかし…

上記の速度問題を解消し進化するために誕生した規格が「SD Express」なのです。SD Expressの正体は、CFexpressと同様の ” SDカードの形をした超小型SSD ” になります。これまでのSDカード独自の通信方式を捨て、パソコンの爆速SSDと同じ「PCIe / NVMe」という技術を丸ごと移植しました。これにより、理論上の速度はUHS-IIの10倍以上、最大約4,000MB/sという異次元の領域に突入したのです。

中途半端な下位互換性能と混乱の恐れ

先程書いた通り、普通のSDカードとSD Expressはまったく異なる規格です。しかしSD Expressは、ある意味 ” 無理やり ” 普通のSDカードと下位互換させてしまったのです。そこで悲劇が生まれてしまいました。

最大の悲劇は、ユーザーへの優しさとして ” SDカードと同じ形 ” を維持したこと。高速化のために端子(ピン)の役割を書き換えた結果、UHS-II対応カメラに挿すと、UHS-IIの速度が出せず、さらに低速なUHS-Iモードまでランクダウンするという致命的な罠が生まれました。UHS-IIの312MB/sを期待したら、実際には104MB/s(UHS-I)しか速度が出ない仕様なのです。

「最新の速いカードを買ったのに、前のカードより連写が遅くなる」という混乱をカメラメーカーは受け入れられなかった事は想像に難くありません。

熱問題は残ったまま

SD Expressは、引き続きプラスチック筐体を採用しました。次世代カードは、スポーツ撮影における高速連写や8K動画など高速かつ大量のデータ記録に用いられます。中身がPC用SSDと同じである以上、大量のデータをやり取りすれば激しく発熱します。その仕様に対してプラスチック筐体はカメラ業界において致命的な課題となりました。

CFexpress「過去」を捨てて「未来」を取った

SD Expressが「SDの形」という呪縛に苦しむ間に、ライバルのCFexpressは賢明な判断を下しました。

彼らは既存規格との互換性をバッサリ切り捨て、物理形状から刷新。金属筐体を採用することで ” 爆速時の熱 ” を逃がし、プロが求める「8K動画」や「止まらない連写」という信頼性を勝ち取りました。

ちなみに「CFexpress Type B」は、XQDと同じスロット形状を採用しながら、中身を最新のSSD技術で武装しました。この件に関しては、互換性というよりスロットを継承して速度爆増した表現が正しいと考えます。※CFexpressのType違いは別記事で解説

規格策定団体「SDA」と「CFA」の方向性の違い

SDA(SDアソシエーション):圧倒的な「汎用性」の維持

SDAは、世界中の家電・PCメーカー約800社が加盟する巨大組織。彼らの至上命題は「世界で最も普及したSDカードという資産を守ること」でした。

そのため、次世代イメージカードの中身をSSD(PCIe/NVMe)に作り替えても、形と名前は「SD」に固執しました。しかし、その「互換性への執着」が、皮肉にも最新カメラで使うと逆に遅くなるという「呪縛」を生んでしまったのです。

CFA(コンパクトフラッシュ協会):プロが求める「性能」への特化

CFAは、キヤノン・ニコン・ソニーなど、カメラメーカーが主導する少数精鋭の組織。彼らの思想は「過去の形を捨ててでも、究極の道具を作ること」でした。

従来カードとの互換性をバッサリ切り捨て、物理形状から刷新。金属筐体を採用して「放熱性」を確保したことで、プロの現場で「熱で止まらない」という絶対的な信頼を勝ち取ったのです。

結末

「誰にでも使いやすい」を目指したSDAと、「プロの要求に応えきること」を選んだCFA。この方向性の差が、現在のカメラメディア市場の勝敗を分ける決定打となりました。

番外 : ソニーが示した解決策

その一方で面白いのはソニーの動きです。SD Expressを採用する代わりに、SDカードとCFexpress Type Aを同じ穴に挿せる「共用スロット」を独自開発しました。規格の進化を待つのではなく、物理的な力技で「過去(SD)」と「未来(CFexpress)」を共存させたのです。

ちなみに現時点でType Aをカメラに採用しているのはソニーのみ。したがって今後競合他社がType Aを採用した場合、ソニーのように共用スロットを採用するのかどうか不明です。

SD Expressに逆襲のチャンスはあるのか?

カメラ界で孤立したSD Express。その真価はPC、スマホ、ゲーム機の世界にあります。出っ張らない内蔵SSDとして、本体ストレージ並みのロード速度を持つゲームメディアとして、カメラ以外の場所で「最強の汎用ストレージ」としての威力を発揮するでしょう。

私達が今選ぶべきメディア

  • 写真撮影がメイン:枯れた技術で安定感抜群の「UHS-II(V60/V90)」
  • プロ級の動画や連写:迷わず「CFexpress」対応機へ
  • SD Express : PCやゲーム機でのデータ移動革命を待つ「未来のメディア」

一般的な静止画撮影において、SDカード(UHS-II V60/V90)で不満を感じることは少ないでしょう。フラッグシップ機におけるスポーツ・8K連続撮影は、CFexpressの圧倒的な書き込みスピードと放熱性能が不可欠。ちなみにmicroSD Expressカードは、ゲーム機 Switch2に対応しています。

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